土
19
3月
2011
東日本大震災でご家族の安否がいまだ確認できない方々、被災して家を失われた方々に、心からお悔やみ申し上げます。震災以来、なかなかパソコンに向かう気持ちになれず、だいぶ日が経ってしまいましたが、さきほど約10日ぶりにおしゃれJAPANを更新し、綾辻行人の「アナザー」を取り上げました。
アナザー
まずは、簡単な内容紹介から(アマゾンより): その「呪い」は26年前、ある「善意」から生まれた―。1998年、春。夜見山北中学に転校してきた榊原恒一(15歳)は、何かに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚える。不思議な存在感を放つ美少女ミサキ・メイに惹かれ、接触を試みる恒一だが、いっそう謎は深まるばかり。そんな中、クラス委員長の桜木ゆかりが凄惨な死を遂げた!この“世界”ではいったい、何が起こっているのか?秘密を探るべく動きはじめた恒一を、さらなる謎と恐怖が待ち受ける…。
このホラー小説をおしゃれJAPANで取り上げたのは、すでに漫画化されていて、アニメ化も予定されているためです。おしゃれJAPANで以前取り上げた小野不由美(綾辻行人の奥様です)の「屍鬼」も、小説自体は10年以上前のものですが、数年前に漫画化され、その漫画をベースにアニメ化されたのを機に世界でブレークしたことが記憶に鮮明のため、きっと綾辻行人の「アナザー」も同じ経路をたどるのではないかと思い、(まだ世界では知られてませんが)先行紹介しようと考えた次第です。
いま手元に小説版がない(息子か娘が、誰かに貸してしまったようです)ので、記憶に頼って書くしかないのですが、本書はホラーとミステリーが無理なく融合した稀有な小説です。大きく三部構成になっていて、最初のテーマは「何(What)が起きているのか」。ミサキ・メイという少女が、クラスメートからも、学校の先生からも徹底無視され、まるでいないもののような扱いを受けている。主人公の恒一は、自分だけ幽霊が見えるのか、とまで思ってしまいます。そして、この背景に26年前の出来事がどうやら絡んでいるらしい、ということが恒一(と読者)にわかってくる。そこから次のテーマ、「どうやって(How)それは起きているのか」が語られます。
26年前の出来事とは、3年3組のクラスで同級生が突然亡くなった。なのに、クラスメートは彼女を慕い、死後も生きているもののように扱って卒業式を迎える。ところが、それから3年3組を舞台に、次々と生徒やその縁者が死亡する怪事件が起きるようになる。そして、その怪事件が起こる年は、なぜかクラスにいるはずのない者が紛れるようになる。そのことがわかってから、最後のテーマ「誰(Who)が真にいないはずの者なのか」に入り、一気にラストスパートするのです。
アナザー(漫画)
最初がWhat、次にHow、最後にWho、というように、ホラー小説なのに、きちんと謎解きになっているところが、さすが新本格派!ということなわけですが、このように一冊の本で三つの趣向を凝らした謎解きがあるところが、この「アナザー」のすごいところです。本日のブログのタイトルを「一粒で三度おいしい」としたゆえんです。
実は、ボクは過去に「一粒で三度おいしい」と思った小説がもうひとつあります。アイラ・レヴィンの「死の接吻」です。これもまずは、アマゾンの内容紹介を:二人は学生同士の恋人だった。女は妊娠しており、男は結婚を迫られていた。彼女をなんとかしなければならない。おれには野心があるのだ――冷酷非情のアプレゲール青年の練りあげた戦慄すべき完全犯罪。当時弱冠二十三歳の天才作家の手になる恐るべき傑作! アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀処女長篇賞受賞作。
ここで内容紹介してるのは最初の章のことだけ。次の章で、亡くなった姉の死に不審を抱いた妹が事件を調べて真相に迫る。ここではじめて読者は「犯人」を知るのですが、ボクは過去に読んだ推理小説で、「犯人」が誰かまったくわからずにそのまま「犯人」が作者から指し示されるページを迎える、という経験をしたのは、この「死の接吻」だけです。どんなに趣向を凝らしても、「これが犯人かな?」というふうに読者も推理して、怪しい人物を一人か二人に絞ってページをめくるはずですが、その瞬間まで思いもよらない、という経験をしたのは、この「死の接吻」だけなのです。この第2章が白眉といっても過言ではありませんが、さらに第3章で今度は末娘が「犯人」に狙われる! もし未読な方がいらっしゃったら、これは本当にイチオシです!
ちなみにアイラ・レヴィンはこれが処女作。弱冠23歳にして処女作でミステリーの金字塔と称せられる小説を書き、それから10年後、ようやく第2作目として発表したのが「ローズマリーの赤ちゃん」で、今度はモダンホラーの金字塔と言われたのだから、まったくもって天才作家です。こちらも、未読というより、もしロマン・ポランスキーの映画を見てないなら、ぜひぜひ小説から手に取ることをお勧めします。ボクは残念ながら映画から先に入ってしまったので、この小説のすごさを半分も体感できなかった!と切歯扼腕したものです。。。
おっとだいぶ話がそれてしまいましたが、ともかく綾辻行人の「アナザー」は、海外の人にも十分通用する高水準のホラー・ミステリーだと確信します。ぜひ機会があったら手にとってみてください(「死の接吻」と「ローズマリーの赤ちゃん」もね^^)