土
26
2月
2011
日々の読書が完全にセンチメンタルモードになってしまってます。川上健一から富島健夫にうつって、つづいて手を出したのが氷室冴子でした。おそらく1980年代に中学生(あるいは小学校高学年)だった方は「懐かしい!」と歓喜してしまうのではないでしょうか? ということで、この回も英語とまったく関係なく、氷室冴子の小説で一番好きな「なぎさボーイ」と「多恵子ガール」について書きます。
なぎさボーイ
このふたつの小説は、ほぼ同じ時期の出来事を、男の子(なぎさ)の視点、女の子(多恵子)の視点で書き分けたもので、対になっているものです。だから、片方だけ読むのではなく、どちらも(なぎさ、多恵子の順番は厳守ですが)読むことをオススメします。ちなみに、扉のところの内容紹介をみると、、、。
”男はすべからく泰然と構える”のが理想の俺なのに、体は子づくり、しかも女顔、とどめが名前で雨城なぎさ! 幼稚園で複数の男どもから求愛され、今は蕨第一中全校生徒からなぎさちゃん呼ばわりだ。その屈辱の過去の元凶北里と、ちゃん付けの張本人多恵子が俺に囁いた。三四郎が恋わずらい!?ーー恋に、受験に、揺れる青春前期、肩肘つっぱらかったジャイボーイの、悪戦苦闘のラブコメディ!(なぎさボーイ)
特別な人。たとえば、誰にどんなふうに見られてもいいけど、世間の目なんかかまっちゃいないけど、その人に変に思われたくない、その人の目には、とびきりの自分が映っててほしい。そんなふう? そんな人なら、いる。いるけど。--シャイなクセに肩肘張って、勝手にあたふたしてるあのなぎさくんを、多恵子の目で覗いてみれば、、、、?(多恵子ガール)
さて、このようになぎさと多恵子のラブコメディ、なはずなんですが、実は後半から結構シビアな展開になるのです。槇修子という女の子が絡んできて、見事な三角関係にはまってしまうんですね^^ でも、正直、「なぎさボーイ」の紹介文にある、三四郎が恋わずらいするお話(第一話 俺たちの序章)よりも、多恵子のことを好きな松宮くんが絡んでくるお話(第二話 俺たちの革命)よりも、やっぱり槇修子が登場するお話(第三話 俺たちの乱世)が俄然おもしろい(というより、せつない)のです。
ともかく、この槇修子という女の子の造形がすごい。なぎさが女の子からラブレターをもらって、それをつき返すところを多恵子にたしなめられ、、、という場面のあと、槇が多恵子のいないところでなぎさに近づいてきて、こんな会話をはじめます。
多恵子ガール
「見てたのか」
「一部始終ね。相変わらず不器用なのね」
「人には得手不得手ってもんがあるんだよ」
「無器用な人、好きだわ。嘘つかないから。雨城くんの好きな人、どっち? 髪の長いやたらきれいな人? それとも髪の短い方?」
「。。。。。。」
巧妙な聞き方だ。
こういう聞かれ方をされちゃ、嘘をつくわけにもいかないじゃないか。
「当ててみようか。みんながターコって言ってる方でしょう」
「。。。。。。」
「なんでわかるかっていうとね。あたしに少し似てるからよ」
「似てる?」
「似てるわよ。気がつかなかった?」
「似てないよ」
「似てるわよ。”気が強そうで、思い込みが激しそうで、けど、きれいだ。眩しいくらいきれいだ。好きだ、そういうの”」
槇は楽しそうに言った。
(略)
「ターコって人も、そんな感じでしょ。なんて名前なの」
「---原田多恵子」
「そう」
「原田多恵子、か。彼女、嫌いだわ」
「はっきりもの言うんだな」
「雨城くんあての手紙見ても、驚きもしないんだもの。それどころか、ちゃんと返事するのよ、気の毒よ、可哀そうよ、、、---。自信がなきゃ言えないわよ。雨城くんに好かれてる、いちばん身近にいるんだって自信があるのよね。そんなの嫌味だわ」
「多恵子はそんなやつじゃないよ」
「庇うの? 憎たらしい。ふふ」
槇は寂しそうに笑った。
槇修子
そして、ふと思い出したように言った。
「あんまり憎たらしいから、邪魔しよう」
「えっ」
俺はぎょっとなって、槇を見た。
「邪魔って、、、、」
「邪魔してあげる。あたし、性格悪いんだ」
「待てよ」
行きかける槇の腕を取ってふり向かせたけど、そのまま何も言えなくなってしまった。
槇はひどく懐かしそうに、俺を見返したのだ。
「受験の時、雨城くんを見かけたのよ。同じ中学の人と一緒で、楽しそうだったわ。その時ね、雨城くんと同じクラスになれたらいいなって思った。同じクラスになれて、嬉しかったわ」
そ、そうかな。そんなふうに見えなかったけどな。
「もひとつ、ほんとのこと言おうか。今でも好きよ」
このやりとりからわかるように、なぎさと槇修子は高校入学前からの知り合い、しかもかなり深い因縁があるわけです。なぎさがかつて槇に投げかけたセリフ、”気が強そうで、思い込みが激しそうで、けど、きれいだ。眩しいくらいきれいだ。好きだ、そういうの”を槇がそのままそらんじてしまうような、そんな濃密な関係がふたりにはあったんです。
この槇の登場が多恵子を苦しめる。実は、ボクは多恵子も好きですが、槇修子にもとっても惹かれるのです。ひたむきな、苦しいまでに一途な、そんな感じがとても伝わってきて、なぎさが中学のとき、槇修子と出逢って”眩しいくらいきれいだ”と声をかけてしまうのも、とってもとってもわかる気がするのです。
でも、小説の中でも何度も同性に嫌われる性格の女の子として描かれてるとおり、女性の読者には受けが悪いようです。ていうか、なぎさの評判までよくないかも!? たとえば、amazonのレビューをみると、「中学生のころに夢中になって読んだ本です。最近ふと思い出し、もう一度読みかえしました。もうすっかり忘れていた中学生の頃のかわいい恋が蘇り、甘酸っぱい青春がとても心地よく胸に残りました」「中学時代にはまり、友達みんなでまわし読みした一冊。みんなで主人公の渚くんのファンになり、キャーキャー言ってました。私にとっても青春の一冊!」というのにまじって、こんなのがありました。
主人公にたいして悪感情を抱いた作品です。物語は面白いです。男の二股をかける心理が綴られていて・・・参考になります。 複数の女と同時に恋愛できる度量も技量もないくせに、口先だけは一丁前の主人公なぎさに、心底怒髪天です。 二股がバレてアタフタし、何とか取り繕うとする姿は醜いの一言でした。
悩む多恵子
おお、こわ、、、。ボクも多恵子も好きだけど、槇修子にも惹かれるなんて、まさに「怒髪天」されちゃうかも。。。。
でも、この種の小説って、誰に気持をシンクロさせるかで、きっと読み方がぜんぜん違うんでしょうね。一途なまでに好きなのに、その好きな彼にはすでに好きな人がいた。そういうシチュエーションで、高校で一緒になってしまった槇修子が「ひどく懐かしそうに」なぎさを見返す場面なんて、なんともせつないじゃないですか。ああ、やっぱり槇に惹かれる~
でも、そんな槇修子の登場を、多恵子の視点でとらえたのが「多恵子ガール」の最終章「あなたについて考えている」。これはもう、落涙もののせつなさです。
槇の登場でとうとうなぎさと絶交するに至った多恵子は、ちょうど失恋の痛手にあった高校3年生と”擬似おつきあい”をするようになって、それから数ヶ月後、その高3生に立ち直ったかどうか聞かれます。
「ところで、きみ、どうなんだ」
「あたし?」
「少しは、努力の甲斐あったか。俺が回復したからには、きみにも成果があってほしいけど」
「あたしは、、、」
あたしは、どうなんだろう。
夜、ベッドの中でシーツ噛みながら、「いつか平気になる」と唱えたこともあったけど。
でも、ここのところずっと考えていたのは、というより夏休みに入ってずっと考えていたのは、今年の夏が涼しくて良かったってことだった。なぎさくんの夏練も、ずいぶん凌ぎやすいだろうって。あの人、やっぱり絶対的にスタミナ不足だから。
最近ずっと考えていたのは、朝、起きて新聞にまっさきに目をやるのは、”明日の天気図と予想気温”で、雨が降ったり急に暑くなったりしないだろうかってことだった。
特に今朝は、寝汗をかきながら目覚めて、あまりの暑さに青ざめてしまった。
今日は、全道選手権兼国体予選の通信陸上があるのだ、、、、。
あたしはいつも、そのことしか考えてなかった。中学のころと同じように。
何でも楽々とこなしてみせた憎らしい子。だけど、本当は誰よりも無器用で下手クソで、だから泣きながら練習していた子。
あなたについて考えている
それがわかった時、その子はあたしにとって、特別の子になった。
その子はいつも、あたしをどきどきさせた。いつも感動そのものだった。
重要だったのは、大事だったのは、いつも考えていたのは、たったひとりの男の子のことだった。それだけだった。今も、それだけが重要なのだ。
ひとりの女の子のために必死で駆け出して行った子。他人の怪我を自分のことのように感じられる子。泣いてるあたしを、ついフラッと抱いちゃうような人。キスまでしちゃう人。ぶん殴る人。知らない人。だから、目が離せない人、、、、。
離れれば離れるだけ、あの人は知らない人になった。他人の顔した人になった。
知りたい。
もっともっと、あの人のことが知りたい。
あたしはちょっとだけしか、あの人のこと知らなかった。それだけのことだ。
「努力の甲斐があったわ。あたし、興味の対象が移った」
あたしはぼんやり言った。
「そりゃ、良かった。なんにさ」
「知らない男の人。雨城なぎさって名前しか知らない人」
「えっ」
そうとうネタバレしちゃいましたけど、それでも「なぎさボーイ」も「多恵子ガール」も、まだまだ感涙もののシーンがふんだんに出てくるので、もし未読で、甘酸っぱい中学時代のころの初恋をもう一度思い出したくなったら、ぜひ手にとってみてください。
ちなみに、このあと「北里マドンナ」という、登場人物たちのその後が描かれている姉妹編もあります。こちらもオススメです。ただひとつ残念なのは、文庫版が前2作とイラストが違うこと。なぎさも多恵子も槇修子も、みんな顔が違うと、どうも感情移入できなくて、、、。
ともあれ、この数日で一気に3作つづけて10何年ぶりに再読したので、いまはまだ中学・高校生のころの余韻にひたってます^^
氷室冴子?なんか懐かしい名前だと思いました。
そうそう、たしか、「なんて素敵にジャパネスク」(内容さえ忘れていますけど)を読んで、感想を
言い合おうなんていう読書会(もちろん他の小説もいろいろ読んで感想を言うんですけど)がありました。もう本も整理しちゃったと思いますけどね。(^_^;)
「なんて素敵にジャパネスク」! 大大大好きです! もうすっかりストーリーは忘れてしまったのに、吉野の君編ラストの2巻と、人妻編ラストの8巻でボロ泣きしたことだけは覚えてます。今回、なぎさボーイ以下3作を再読した勢いで「なんて素敵に、、、」に突入すべく本棚の奥から引っ張り出したんですけど、なかなか暇がなくて。でも、いずれ近いうちに再読したいです!
